任意後見契約を結んでも、任意後見は、判断能力が低下して家庭裁判所が監督人を選ぶまで始まりません。では、契約してから任意後見が始まるまでの間、本人の暮らしや財産は誰が支えるのでしょうか。この「空白期間」を埋める契約として、「見守り契約」と「財産管理等委任契約」があります。今回は、この2つの契約の内容と、任意後見との関係を整理します。

「空白期間」には2つの不安があります

任意後見契約を結んだ後、任意後見が始まるまでの間には、次のような不安が生じます。

  • 判断能力の低下に気づいてもらえない:一人暮らしだと、物忘れが進んでも誰も気づかず、任意後見の申立てが遅れるおそれがあります
  • 判断能力はあるが、体が不自由で手続きができない:入院や足腰の衰えで、銀行や役所に行けなくなっても、この段階では任意後見は始まりません

前者に備えるのが「見守り契約」、後者に備えるのが「財産管理等委任契約」です。

寄り添って歩く二人のイメージ

見守り契約とは

定期的に連絡を取ったり訪問したりして、本人の健康状態や生活の様子を確認する契約です。判断能力が低下してきたときに、それに気づいて、任意後見の開始につなげることが主な目的です。

  • 月に1回程度の電話や訪問などで、様子を確認します
  • 契約の内容(確認の頻度や方法、報酬など)は、当事者の話合いで自由に決められます
  • 見守り契約そのものには、財産を管理する権限はありません

見守りをする人が、任意後見人になる予定の人を兼ねていれば、判断能力の低下に気づいたときに、その人が家庭裁判所へ申立てをすることができます。見守りをする人と任意後見人になる予定の人が別の場合は、連絡を取り合う仕組みを決めておくことが大切です。

財産管理等委任契約とは

判断能力があるうちから、財産管理や各種の手続きを、信頼できる人に任せる契約です。民法上の「委任契約」にあたります。

  • 預貯金の管理、公共料金や家賃の支払い、年金に関する届出、役所や金融機関での手続きなどを任せることができます。ただし、金融機関や行政機関によって必要な書類や取扱いが異なるため、事前の確認が必要です
  • 任せる範囲や、預かる財産の管理方法は、契約で決めます
  • 本人の判断能力が低下しても、財産管理等委任契約が法律上当然に終了するわけではありません。ただし、契約で別途終了条件を定めている場合は、その内容に従います

体が不自由になって外出が難しくなったときなど、判断能力がしっかりしている段階から、財産管理や各種手続きを任せられるのが強みです。ただし、金融機関などでは個別の手続きが必要になる場合もあるため、事前に確認しておくことが大切です。

硬貨が瓶からこぼれるイメージ

3つの契約の違い

見守り契約財産管理等委任契約任意後見契約
目的本人の様子を確認し、変化に気づく判断能力があるうちから、財産管理や手続きを任せる判断能力が低下した後の財産管理や手続きを任せる
財産管理の権限なしあり(契約で決めた範囲)あり(代理権目録の範囲)
始まる時期契約で定めた時から契約で定めた時から家庭裁判所が監督人を選んだ時から
監督人のチェックなしなしあり

見守り契約と財産管理等委任契約は、必ずしも両方結ぶ必要はありません。財産管理を任せる必要がなければ、任意後見契約と見守り契約だけで十分な場合もあります。また、任意後見人になる予定の人、見守りをする人、財産管理を任される人は、必ずしも同じ人でなくてもかまいません。ご自身の状況に合わせて、必要な契約を選びます。

財産管理等委任契約の注意点

財産管理等委任契約では、任意後見とは異なり、家庭裁判所が選任する監督人によるチェックはありません。受任者には法律上の注意義務や報告義務がありますが、財産の使い込みなどを防ぐためにも、契約で定期的な報告や第三者による確認の仕組みを設けておくことが大切です。

  • 任せる相手を慎重に選ぶ:本人の財産を預かる立場ですので、信頼できる人かどうかが大切です
  • 管理の方法を決める:出し入れできる口座の範囲、払戻しの限度額、定期的な報告の方法などを、契約で決めておきます
  • 第三者のチェックを入れる:家族や専門家など、第三者に定期的に状況を報告する仕組みをつくると、不正やトラブルを防ぎやすくなります。報告先や報告範囲は、本人の意向を確認したうえで、契約で明確にしておきましょう
  • 金融機関の対応を確認する:委任契約を公正証書にしておくと、金融機関などに説明しやすくなりますが、手続きを認めるかどうかは金融機関によって異なります

任意後見への切替えを忘れずに

判断能力が低下してきたのに、財産管理等委任契約のまま続けていると、監督人のチェックがないまま、長期間、財産の管理を任せ続けることになってしまいます。

任意後見への移行には、家庭裁判所による任意後見監督人の選任が必要です。また、2つの契約による財産管理の権限が重複しないよう、任意後見が始まった時点で財産管理等委任契約が終了する旨を、あらかじめ定めておくことが大切です。「いつ、誰が、何をきっかけに」切り替えるのかを、契約を結ぶ段階で明確にしておきましょう。

よくあるご相談の例

例えば、一人暮らしで子どもがいない方が、将来に備えて専門家と任意後見契約を結んだとします。しかし、契約を結んだだけでは、日頃の生活状況を確認したり、判断能力が十分なうちから財産管理を代行したりすることはできません。そこで、定期的に本人の様子を確認する見守り契約や、必要に応じて預貯金の管理などを任せる財産管理等委任契約を組み合わせる方法があります。本人の状態が変化したときに、任意後見監督人の選任申立てにつなげられるよう、あらかじめ体制を整えておくことが大切です。

よくある質問

Q. 見守り契約だけを結ぶことはできますか?

A. できます。ただし、見守り契約には、財産を管理する権限がありません。判断能力が低下したときの備えとして、任意後見契約をあわせて検討することをおすすめします。

Q. 財産管理等委任契約だけでも十分ですか?

A. 判断能力が低下した後も、この契約が法律上当然に終わるわけではありませんが、監督人のチェックがない状態が続きます。また、金融機関によっては、判断能力の低下が分かった時点で、取引を制限する場合があります。そのため、任意後見契約とあわせて結ぶのが一般的です。

Q. 見守り契約や財産管理等委任契約は、公正証書にしなければなりませんか?

A. 法律上、公正証書にしなければならないわけではありません。ただし、財産を管理する契約は、内容を明確にしておくことが大切です。公正証書にしておくと、金融機関などに示しやすい面があります。

Q. 費用はどのくらいかかりますか?

A. 契約で自由に決められます。見守りの頻度や、任せる財産の範囲、相手方が専門家かどうかによって異なります。契約の前に、報酬の額、支払いの方法、実費の扱いなどを書面で確認してください。

せと行政書士事務所ができること

任意後見契約と、見守り契約・財産管理等委任契約を組み合わせた全体の設計をサポートします。契約書の原案作成と、公証役場との調整もお任せください。亡くなった後の手続きについては、死後事務委任契約も含めてご相談いただけます。

まとめ

任意後見が始まるまでの「空白期間」には、「判断能力の低下に気づいてもらえない」「体が不自由で手続きができない」という2つの不安があります。前者には見守り契約、後者には財産管理等委任契約で備えることができます。ただし、財産管理等委任契約は監督人のチェックがないため、相手選びと管理方法の取り決め、そして任意後見への切替えの定めが大切です。いつ・誰が・何をきっかけに任意後見の申立てをするかという移行の設計まで含めて、契約を結ぶ段階から考えておきましょう。

参考:日本公証人連合会「任意後見契約」

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せと行政書士事務所 代表 瀬戸孝之
瀬戸 孝之(せと行政書士事務所 代表)
行政書士・CFP・FP1級技能士・宅地建物取引士・家族信託専門士。銀行・不動産・保険の業界を経て、実務25年。
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執筆者:せと行政書士事務所 代表 瀬戸孝之(行政書士・CFP・FP1級技能士・宅地建物取引士・家族信託専門士)

投稿者プロフィール

瀬戸 孝之
瀬戸 孝之資産トータルアドバイザー
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、家族信託専門士、一種外務員を保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。