任意後見人にできるのは、契約書の「代理権目録」に書かれた範囲のことだけです。目録に書かれていないことは、任意後見人でも本人に代わって行えません。ですから、契約を結ぶときに何を入れるかが、将来の安心を左右します。今回は、代理権の範囲の考え方と、入れ忘れやすい項目、あえて制限を考えたい項目を整理します。

代理権目録とは

任意後見契約では、任意後見人に任せる事務を一覧にした「代理権目録」を契約書に添付します。公証役場では、日本公証人連合会が示している標準的な目録(17項目)をもとに作成するのが一般的です。目録に書かれた代理権は、任意後見が始まると登記され、銀行などでの手続きの際に、登記事項証明書で権限を示すことになります。

契約書を前に手続きを打ち合わせるイメージ

任意後見人に任せられることの種類

代理権の対象は、大きく「財産管理」と「身上保護(生活・療養看護)」に分かれます。

  • 財産管理:預貯金の管理・払戻し、不動産の管理、年金や各種給付金の受領、税金・公共料金・保険料などの支払い、保険の手続きなど
  • 身上保護:介護サービスの契約、施設への入所契約、病院での入院契約、要介護認定の申請など
  • 行政手続・紛争の処理:役所への申請、行政への不服申立てなど。弁護士に訴訟を依頼する権限(訴訟行為の委任)も、目録に含めることができます

なお、介護や看病そのものは任意後見人の仕事ではありません。任意後見人が行うのは、あくまで「契約や手続き」です。

入れ忘れやすい項目

標準的な目録には包括的な項目も含まれているため、ここに挙げる項目は、すでにカバーされている場合もあります。ただし、金融機関や施設によって運用が異なることもあるため、具体的に書いておくと安心です。

  • 貸金庫の開閉・内容物の取出し:貸金庫の手続きは、権限を明記していないと金融機関に断られることがあります
  • デジタル関連:ネット銀行・証券口座、各種サービスの解約や変更の手続き
  • 保険の手続き:加入中の保険の請求・解約・名義変更
  • 郵便物の受領:郵便物の受取りや、転送の手続き
  • 住居に関する手続き:賃貸借契約の更新・解約、公共料金の名義変更など
  • 行政手続全般:介護保険、医療費の申請、年金関係の手続きなど

慎重に考えたい項目

代理権は、広ければ安心というものではありません。契約は自由に設計できるので、不要なものを削る、制限をつけるという考え方もあります。

  • 居住用不動産の処分:自宅の売却などは、本人の生活に大きく影響するため、慎重な判断が必要です。法定後見では家庭裁判所の許可が必要ですが、任意後見では原則として必要ありません。そのため、将来、施設入居費用などを確保するために自宅を売却する可能性も考え、代理権を与えるかどうかを検討することが大切です。また、代理権を与えたうえで、売却時には任意後見監督人の同意を必要とする特約を設ける方法もあります
  • 預貯金の払戻し:「特定の口座のみ」「月額の払戻限度額を決める」といった限定をつけることもできます
  • 贈与:本人の財産を減らす行為なので、含めるかどうか、含める場合の範囲を慎重に検討します
  • 本人と任意後見人の利益が対立する行為:たとえば、任意後見人が本人の共同相続人でもある場合、遺産分割では利益が対立します。このような場合は、任意後見監督人が本人を代表します

なお、任意後見監督人の同意は、法律上すべての処分行為で必要になるわけではありません。同意が必要な行為は、契約で定めておきます。

車椅子の方を周りで支える人形のイメージ

代理権に含められないこと

次のようなことは、代理権の対象にできません。

  • 医療行為への同意:手術などへの同意は、任意後見人の権限に含まれません
  • 婚姻、養子縁組、遺言など:本人にしかできない行為
  • 身元保証・保証人になること:任意後見人の仕事とは別です
  • 亡くなった後の手続き:任意後見は本人の死亡で終了するため、葬儀や納骨などは死後事務委任契約で別に備えます

後から代理権を追加できる?

契約を結んだ後で、代理権を増やしたくなることもあります。ただし、「契約書の目録を書き換える」という簡単な方法では済まないことがあります。追加が必要になった場合は、新たな契約を結ぶ必要がある場合があります。具体的な方法は、公証役場によって扱いが異なることもあるため、事前に確認してください。

だからこそ、最初の契約のときに「将来必要になりそうなこと」を想定して、十分な範囲を入れておくことが大切です。

よくあるご相談の例

例えば、一人暮らしの方が任意後見契約を結ぶとします。「自宅を売る権限は含めたくないが、入院や施設入所の手続きは任せたい」というご希望でした。この場合、目録に「居住用不動産の処分は含まない」と明記し、預貯金の管理や介護・施設の契約、行政手続などは入れる、という設計が考えられます。逆に、貸金庫の存在を伝え忘れて目録に入れなかった場合、任意後見が始まってから手続きが止まってしまうことがあります。契約時に、財産や契約の棚卸しをしておくことが大切です。

よくある質問

Q. 代理権の範囲は、あとから制限できますか?

A. 任意後見が始まる前であれば、契約を解除して結び直す方法があります。始まった後に変更する場合は、新たな契約の締結が必要になることがあります。公証役場に相談してください。

Q. 代理権は広くしたほうが安心ですか?

A. 広ければ安心とは限りません。必要な権限は十分に備えつつ、不動産の処分など重要な行為には、制限や監督人の同意を考える方法があります。

Q. 税金の申告も任せられますか?

A. 申告に必要な手続きや書類の準備を任せる内容を定めることはできます。ただし、税務書類の作成や税務相談は税理士の業務ですので、必要に応じて税理士と連携します。

Q. 標準の目録をそのまま使えば十分ですか?

A. 標準の目録は参考になりますが、ご自身の財産や生活に合わせて、入れる項目、除く項目を考えることが大切です。

せと行政書士事務所ができること

財産や契約の棚卸しをしたうえで、ご希望に合った代理権目録の設計をサポートします。任意後見契約書の原案作成と、公証役場との調整もお任せください。

まとめ

任意後見契約では、代理権目録によって、任意後見人ができることの範囲が決まります。必要な権限を十分に備えながら、不動産の処分など重要な行為については制限を設けることも検討しましょう。また、代理権を後から追加・変更するには、新たな契約の締結などが必要となる場合があります。将来の生活や財産状況の変化も想定し、契約を結ぶ段階から慎重に設計することが大切です。

参考:日本公証人連合会「任意後見契約」

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せと行政書士事務所 代表 瀬戸孝之
瀬戸 孝之(せと行政書士事務所 代表)
行政書士・CFP・FP1級技能士・宅地建物取引士・家族信託専門士。銀行・不動産・保険の業界を経て、実務25年。
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執筆者:せと行政書士事務所 代表 瀬戸孝之(行政書士・CFP・FP1級技能士・宅地建物取引士・家族信託専門士)

投稿者プロフィール

瀬戸 孝之
瀬戸 孝之資産トータルアドバイザー
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、家族信託専門士、一種外務員を保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。