任意後見契約は、契約を結んだだけでは始まりません。判断能力が低下したときに、家庭裁判所に「任意後見監督人」を選んでもらって、はじめて任意後見が始まります。いざというときに慌てないよう、誰が、いつ、何を準備して、どのように進めるのかを知っておくことが大切です。今回は、任意後見が始まるまでの流れを整理します。
任意後見を始めるタイミング
任意後見を始めるための申立ては、認知症などによって本人の判断能力が不十分になったときに検討します。日常生活や財産管理に支障が出始めた場合は、その兆候の一つです。ただし、物忘れなどがあるだけで自動的に任意後見が始まるわけではありません。医師の診断書や本人の生活状況などを踏まえ、家庭裁判所が任意後見監督人を選任するかどうかを判断します。例えば、次のようなことが続いたときは、検討の目安になります。
- 物忘れが増えて、お金の管理や手続きに支障が出てきた
- 同じものを何度も買ってしまう、支払いを忘れる
- 詐欺や悪質な勧誘のリスクが気になる
どの程度で始めるかは、医師の診断や、本人の生活の状況を踏まえて判断します。迷う場合は、かかりつけ医や、地域包括支援センター、契約を結んだ専門家に早めに相談することが大切です。
申立てができる人と、申立先
家庭裁判所に、任意後見監督人の選任を申し立てます。
- 申立てができる人:本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見人になる予定の人
- 申立先:本人の住所地を管轄する家庭裁判所
- 本人の同意:本人以外が申し立てる場合は、原則として本人の同意が必要です(本人が意思表示できない場合は、この限りではありません)
契約を結んだだけでは、誰も申立てをしてくれません。任意後見人になる予定の人が、本人の様子に気づき、申立てにつなげられる関係をつくっておくことが重要です。

申立ての流れ
- 1. 準備:必要書類(下記)と、本人の診断書などをそろえる
- 2. 申立て:本人の住所地の家庭裁判所に、申立書と書類を提出する
- 3. 家庭裁判所の調査:裁判所が、本人や任意後見人になる予定の人から、事情を確認します。親族に、申立ての概要を伝えて、意向を確認することもあります
- 4. 任意後見監督人の選任:家庭裁判所が、任意後見監督人を選任します
- 5. 任意後見の開始:監督人が選任された時から、任意後見契約の効力が生じます
裁判所の案内では、申立てから審判まで、おおむね1〜2か月程度が目安とされています(鑑定が必要な場合は、さらに期間がかかります)。書類の準備にも時間がかかるため、できるだけ早く準備を始めることが大切です。
申立てに必要な書類と費用
主な書類は次のとおりです。
- 申立書
- 本人の戸籍謄本
- 任意後見契約公正証書の写し
- 本人の成年後見等に関する登記事項証明書(法務局で取得します)
- 本人の診断書(家庭裁判所が定める様式)
- 本人の財産に関する資料(不動産の登記事項証明書、預貯金の残高が分かる資料など)
- 任意後見監督人の候補者がいる場合は、候補者の住民票または戸籍の附票
主な費用は、申立手数料として収入印紙800円、登記手数料として収入印紙1,400円、郵便切手(金額は裁判所ごとに異なります)です。本人の精神状態について鑑定が必要になった場合は、鑑定費用がかかることがあります。
このほか、申立事情説明書、親族関係図、任意後見受任者事情説明書、財産目録、収支予定表など、家庭裁判所所定の書類が必要になります。また、監督人の候補者が法人の場合は、住民票ではなく、商業登記簿謄本などが必要になります。申立先によって提出書類や様式が異なることがあるため、事前に確認してください。
任意後見監督人には誰が選ばれるか
任意後見監督人は、家庭裁判所が選びます。候補者を立てることはできますが、希望どおりの人が選ばれるとは限りません。選ばれるのは、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家の場合もあれば、本人の事情に応じて、親族以外の第三者が選ばれる場合もあります。
なお、任意後見人になる予定の人や任意後見人の配偶者、直系血族(親や子など)、きょうだいは、任意後見監督人になることはできません。
任意後見が始まった後の流れ
- 任意後見人は、契約で決めた範囲で、本人に代わって財産管理などを始めます
- 任意後見人は、監督人に対して、事務の報告をします
- 監督人は、任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所に定期的に報告します
- 任意後見の開始は法務局に登記されるため、銀行などの手続きの際には、登記事項証明書で、任意後見人としての権限を示します
任意後見監督人の報酬は、監督人からの申立てに基づいて、家庭裁判所が決定します。報酬が認められた場合は、本人の財産から支払われます。

申立てで困りやすいポイント
- 診断書をもらうタイミング:かかりつけ医に、任意後見の申立てに使うことを伝えて、家庭裁判所の様式で依頼します
- 本人の協力が得られない:本人が申立てに反対したり、意思表示が難しかったりする場合の進め方を、事前に専門家に相談しておくと安心です
- 必要書類が集まらない:戸籍や登記事項証明書など、取得に時間がかかるものは、早めに準備を始めます
- 誰が申し立てるか決まっていない:契約のときに、誰が気づいて申立てをするのかを、決めておくことが大切です
よくあるご相談の例
例えば、一人暮らしで、将来型の任意後見契約を結んでいる方が、物忘れが目立ってきたとします。遠方に住む任意後見人になる予定の方が、連絡が減っていることに気づき、本人の様子を確認しに訪れ、かかりつけ医に相談して診断書を取得し、家庭裁判所に申立てをする、という流れになることがあります。このように、「気づいてくれる人」と「申立ての手順を知っている人」がいることが、スムーズに始めるための鍵になります。
よくある質問
Q. 申立てから任意後見が始まるまで、どのくらいかかりますか?
A. 裁判所の案内では、申立てから審判までおおむね1〜2か月程度が目安とされています。ただし、本人の状態について鑑定が必要な場合などは、さらに時間がかかることがあります。また、申立て前の書類準備にも時間を要するため、早めに準備を始めることが大切です。
Q. 任意後見監督人の候補者を、自分で選べますか?
A. 候補者を立てることはできますが、最終的には家庭裁判所が選びます。希望どおりになるとは限りません。
Q. 本人が申立てに反対している場合はどうなりますか?
A. 本人以外の人が申し立てる場合は、原則として本人の同意が必要です。本人が意思表示できない場合は、同意なしで申し立てられることもあります。個別の状況によって対応が異なるため、専門家に相談してください。
Q. 申立てをしたあとで、取り下げはできますか?
A. 任意後見監督人選任の申立ては、家庭裁判所の許可を得なければ、取り下げることができません。申立て後に事情が変わった場合は、申立先の家庭裁判所に相談してください。
せと行政書士事務所ができること
任意後見契約の設計の段階から、「誰が気づいて、申立てにつなげるか」まで見据えた体制づくりをサポートします。申立書類の作成は司法書士、申立ての代理は弁護士の業務のため、必要が生じたときは、ご了承をいただいたうえで連携してご案内します。
まとめ
任意後見は、契約を結んだだけでは始まりません。家庭裁判所への申立てから、任意後見監督人の選任まで、いくつかの手順が必要です。必要書類や費用、流れをあらかじめ知っておくこと、そして、誰が気づいて申立てにつなげるのかを決めておくことが、いざというときの安心につながります。
参考:裁判所「任意後見監督人選任」(申立ての手続き・書式の案内)
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執筆者:せと行政書士事務所 代表 瀬戸孝之(行政書士・CFP・FP1級技能士・宅地建物取引士・家族信託専門士)
投稿者プロフィール

- 資産トータルアドバイザー
-
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、家族信託専門士、一種外務員を保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。
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