任意後見契約を結ぶとき、いちばん悩むのが「誰に任意後見人をお願いするか」です。任意後見人は、判断能力が低下した後の財産管理や手続きを、長い期間にわたって本人に代わって行います。誰を選ぶかで、その後の安心が大きく変わります。今回は、子ども、専門家、法人という3つの選択肢の特徴と、選ぶときの注意点を整理します。

任意後見人になれる人・なれない人

任意後見人になるために、特別な資格は必要ありません。子どもや親族、友人、専門家、法人など、本人が信頼できる相手を選ぶことができます。ただし、次のような人は任意後見人になれません。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で法定代理人・保佐人・補助人を解任された人
  • 破産して、まだ資格が回復していない人
  • 行方が分からない人
  • 本人に対して訴訟をしている、または過去に訴訟をした人(その配偶者や直系血族を含みます)
  • 不正な行為や著しい不行跡など、任意後見人の任務に適さない事情がある人

契約のときに問題がなくても、任意後見を開始する段階でこれらに当てはまると、家庭裁判所は任意後見監督人を選任できず、その契約による任意後見を開始することができません。

専門家が高齢のご夫婦に説明する様子のイメージ

3つの選択肢の比較

家族(子など)専門家法人
主な特徴本人のことをよく知っている。身近で気づきやすい法律・財産管理の知識がある。第三者として客観的に対応できる組織として継続的に対応できる。複数の担当者で対応する場合がある
注意したい点他の家族との関係、本人の財産と自分の財産の線引き、仕事や遠方で対応できないことがある本人や家族との相性、報酬がかかる、身近な生活面の支援は別に考える必要がある担当者が代わることがある、法人の運営状況や財産管理の方法を確認する必要がある
報酬無報酬とする場合もあるが、定めるなら契約書に明記する契約で定める。家庭裁判所の監督人の報酬とは別にかかる契約で定める。内容は法人ごとに異なる

家族(子など)に頼む場合

本人の状況や性格をよく知っていて、日々の変化に気づきやすいのが最大の強みです。一方で、次の点には注意が必要です。

  • 他のきょうだいの理解:任意後見人になった子が財産を管理することで、他のきょうだいから「財産を使い込んでいるのではないか」と疑われることがあります。収支の記録を残し、必要に応じて報告することが大切です
  • 本人のための財産管理:任意後見人は、本人の財産を本人の利益のために管理する立場です。自分の生活費への流用や、本人の利益に反する贈与などは認められません。本人の財産と自分の財産を明確に区別して管理する必要があります
  • 家族でも監督人はつく:家族が任意後見人でも、任意後見監督人が選ばれ、チェックを受けます
  • 対応できる体制か:仕事や距離の問題で、必要なときにすぐ動けないことがあります

専門家に頼む場合

弁護士・司法書士・社会福祉士・行政書士などの専門家に頼む方法です。財産管理や手続きに慣れていて、家族間の利害から距離を置いて対応できる点が強みです。

一方で、専門家は、本人の日常の細かな変化まで把握しにくいことがあります。また、報酬については契約で定めるため、月額報酬などの継続的な費用が発生する場合があります。

法人に頼む場合

法人に依頼する場合、任意後見契約の受任に対応している社会福祉協議会や、成年後見業務を行う法人などが候補になります。ただし、すべての法人が任意後見契約を引き受けているわけではないため、事前の確認が必要です。

個人と違い、担当者が亡くなったり、病気になったりしても、組織として対応を続けやすい点が強みです。一方で、担当者が途中で交代することがあります。また、法人の運営状況や、預かった財産の管理方法(本人の財産と法人の財産が分けて管理されているか)を、契約の前に確認しておく必要があります。

専門家のチームのイメージ

複数の人に頼む方法

任意後見人は1人に限らず、複数人に依頼することもできます。それぞれに担当する業務を分けたり、一定の業務を共同で行うように定めたりすることが可能です。

複数人で担当することで、1人への負担の集中を避けられる場合があります。一方で、判断が分かれたり、手続きが複雑になったりするおそれもあります。誰がどの業務を担当し、どのように代理権を行使するのか、契約書で明確にしておくことが大切です。

また、「財産管理は専門家、日常の生活面の見守りは家族」という役割分担は、必ずしも2人とも任意後見人になる必要はありません。専門家1人を任意後見人とし、家族が任意後見契約とは別に生活面を見守る、という体制も考えられます。

任意後見人が先に亡くなったら?

任意後見人になる予定の人や、すでに任意後見人となっている人が亡くなった場合、その人との契約は原則として終了します(後見開始の審判を受けた場合なども同様です)。特に、本人の判断能力が低下した後では、新たな任意後見契約を結ぶことが難しい場合があります。年齢の近い配偶者や、高齢のきょうだいを任意後見人にすると、先に務められなくなるおそれもあります。

そのため、最初から複数の人と任意後見契約を結んでおく方法や、法人に依頼する方法なども検討しておくと安心です。

選ぶときに確認したいこと

  • 本人の意向を大切にしてくれる人か
  • 財産管理に誠実で、記録や報告をきちんとしてくれる人か
  • 年齢や健康状態、生活環境などから、長期間にわたり安定して対応できるか
  • 家族や関係者と連絡を取り合える関係か
  • 報酬の有無・金額・支払い方法が、契約書に明記されているか
  • 預かった財産の管理方法(本人の財産と自分の財産を分けるか)が明確か
  • 任意後見を始める必要が生じたときに、誰が気づいて、家庭裁判所への申立てにつなげてくれるか

「誰に任せるか」だけでなく、「必要なときに確実に動いてくれるか」。この2つを、選ぶときの柱にすることが大切です。特に、将来型の任意後見契約では、契約を結んだだけでは任意後見は始まりません。任意後見人になる予定の人が、本人の状況を把握し、必要な時期に申立てにつなげられる体制を考えておく必要があります。

よくあるご相談の例

例えば、一人暮らしの方が、長男に任意後見人を頼もうとしたとします。長男は遠方に住んでいて、仕事も忙しく、日常の細かな対応は難しい状況です。また、次男との関係が良くないため、長男が財産を管理することに次男が不安を感じるかもしれません。このような場合、専門家に任意後見人を頼み、長男は契約とは別に生活面の見守りを担う、というように役割を分けると、それぞれの負担と不安を和らげられることがあります。

よくある質問

Q. 友人や知人を任意後見人にすることはできますか?

A. できます。特別な資格は必要ありません。ただし、財産管理を長期間任せることになるため、信頼関係に加えて、年齢や健康状態、対応できる体制も考えて選ぶことが大切です。

Q. 任意後見人には報酬を払う必要がありますか?

A. 契約で決めます。家族が任意後見人になる場合は、無報酬とすることもありますが、報酬を定める場合は、契約書に明記しておくことが大切です。なお、任意後見監督人には、家庭裁判所が決めた報酬が別にかかります。

Q. 家族が任意後見人になる場合でも、監督人はつきますか?

A. つきます。任意後見が始まるには、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することが必要です。家族が任意後見人でも、監督人のチェックを受けます。

Q. 後から任意後見人を変更したいときは、どうすればいいですか?

A. 任意後見が始まる前であれば、現在の契約を解除して、別の人と新たに契約を結ぶ方法があります。任意後見が始まった後は、正当な事由があり、家庭裁判所の許可を得て契約を解除する方法があります。また、任意後見人に不正行為などがある場合には、家庭裁判所による解任の制度もあります。ただし、解任しても、家庭裁判所が代わりの任意後見人を選んでくれるわけではありません。任意後見人を交代させることは簡単ではないため、契約時に慎重に選ぶことが大切です。

せと行政書士事務所ができること

任意後見人にふさわしい人の選び方や、役割の分担、複数人で任意後見人を担う場合の契約の設計など、ご家族の状況に合った体制を一緒に考えます。任意後見契約書の原案作成と、公証役場との調整をサポートします。

まとめ

任意後見人は、家族、専門家、法人のどれにも、それぞれの強みと注意点があります。本人の意向を大切にしながら、「長く対応できるか」「先に務められなくなったときの備えがあるか」「必要なときに確実に動いてくれるか」「報酬や財産管理の方法が明確か」を基準に選ぶことが大切です。1人にこだわらず、役割を分けて複数人で担う方法も、選択肢の一つです。


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執筆者:せと行政書士事務所 代表 瀬戸孝之(行政書士・CFP・FP1級技能士・宅地建物取引士・家族信託専門士)

投稿者プロフィール

瀬戸 孝之
瀬戸 孝之資産トータルアドバイザー
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、家族信託専門士、一種外務員を保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。