きょうだいが複数いる家庭では、家族信託の設計そのものが、将来の関係性に影響することがあります。誰か1人に財産管理を任せる仕組みだからこそ、設計段階での整理が特に重要です。契約書の中身以上に、「誰が、どんな理由で、どの役割を担うのか」という納得感が問われます。
受託者は1人でも、複数でもよい
受託者は1人である必要はなく、複数のきょうだいを「共同受託者」とすることも可能です。ただし、共同受託者にすると、次のような点に注意が必要です。
- 意思決定のルール:共同受託者の意思決定は、法律上は原則として過半数で決めることになっています(契約で「全員一致」などに変えることもできます)。2人の場合は、2人とも賛成しないと決められないため、実質的に全員一致になります
- 手続きの手間:金融機関や不動産の手続きでは、受託者全員の署名や押印が求められることが多く、遠方に住んでいたり忙しかったりする人がいると、手続きが進みにくくなります
- 責任の重さ:共同受託者になると、信託の事務に関する責任は、原則としてみんなで連帯して負うことになります。「名前だけ貸すつもり」では済まない点を、事前に理解しておく必要があります

きょうだいの関わり方、4つのパターン
受託者を誰にするかだけでなく、「他のきょうだいにどう関わってもらうか」もあわせて考えます。
- 受託者は1人にし、他のきょうだいには信託監督人などの役割で関与してもらう方法
- 受託者は1人にしたうえで、不動産の売却など重要な判断だけは、他のきょうだいの同意を得る仕組みを契約に入れる方法
- 共同受託者とし、判断を話し合って決める方法
- 財産ごとに別々の信託契約を組み、それぞれ別の受託者を決める方法(不動産は長男、預金は長女など)。ただし、契約の数だけ費用や手間がかかります
どのパターンでも、年に1回程度、財産の状況を報告し合う場を設けておくと、安心感が違います。

受益者を複数人にする場合の注意点
親が受益者であるケースが一般的ですが、将来的に受益権を複数のきょうだいに分けて考える場合もあります。受益権の割合や、分配のタイミングをどう定めるかによって、実務上の複雑さが変わってきます。また、きょうだい間で受け取る割合に差をつける場合は、不公平感が生まれやすく、将来の遺留分のトラブルにつながることもあります(詳しくは別記事「受託者になった子と、ならなかった子の間で起きること」でも解説しています)。
よくあるご相談の例
「3人きょうだいのうち、長男を受託者にする案で進めていたが、次男・三男から『自分たちも共同受託者になりたい』という要望が出た」というご相談がありました。話し合いの中で、共同受託者になると責任も連帯して負うこと、手続きのたびに全員の署名や押印が必要になることを説明したところ、最終的には、受託者は長男1人にしたうえで、不動産の売却など重要な判断だけは次男・三男の同意を得る仕組みを契約に盛り込む形でまとまりました。当初は意見が対立しかけましたが、専門家を交えて、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを整理したことで、感情的な対立を避けながら話し合いを進めることができました。
設計時に整理しておきたいこと
最終的に受託者を決めるのは、財産を託す親(委託者)本人です。そのうえで、「誰が何を担うか」だけでなく、「なぜその形にしたのか」を家族全員が理解している状態を作っておくことが、後々のわだかまりを防ぐ最大のポイントです。
よくある質問
Q. 共同受託者のうち1人が認知症になったらどうなりますか?
A. 認知症になっただけで、受託者の任務が自動的に終わるわけではありません。ただ、実際に職務を果たせなくなった場合や、後見開始の審判を受けた場合などは、原則として残りの受託者で信託の事務を続けることができます。それでも判断できない場面が出てくるため、契約時に後継受託者や、辞任・交代の方法を決めておくと安心です。
Q. きょうだいの人数が多いと、信託の設計は複雑になりますか?
A. 人数が多いほど、権限や役割の整理は複雑になりやすい傾向があります。早めに専門家を交えて話し合うことをおすすめします。
Q. きょうだいの一人が反対している場合でも、信託は組めますか?
A. 信託を組むかどうかを決めるのは委託者(親)本人で、きょうだい全員の同意が法律上必要なわけではありません。ただし、反対されたまま進めると、将来のトラブルにつながりやすいため、理由を丁寧に説明し、必要に応じて専門家を交えて話し合うことをおすすめします。
Q. 遠方に住むきょうだいがいる場合、どう関わってもらえばいいですか?
A. オンラインでの話し合いや、信託監督人としての関与など、直接の財産管理以外の形で関わってもらう方法もあります。物理的な距離だけで役割を決めつけず、本人の意向も確認することをおすすめします。
せと行政書士事務所ができること
ご家族構成やそれぞれの状況をふまえ、きょうだい間で納得感のある受託者・受益者の設計を一緒に整理します。
まとめ
きょうだいが複数いる場合の家族信託は、権限の分け方次第で関係性にも影響します。共同受託者にするかどうかは、責任や手続きの負担も含めて慎重に判断し、役割分担の理由を家族全員で共有して、納得できる設計を心がけましょう。
執筆者:せと行政書士事務所 代表 瀬戸孝之(行政書士・CFP・FP1級技能士・宅地建物取引士・家族信託専門士)
投稿者プロフィール

- 資産トータルアドバイザー
-
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、家族信託専門士、一種外務員を保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。
最新の投稿
代表コラム2026年10月7日複数のきょうだいで信託を設計するときの考え方
代表コラム2026年10月6日家族信託が終わったら、財産はどうなるのか
代表コラム2026年10月5日信託した不動産を売却するときの実務上の注意点
代表コラム2026年10月4日家族信託は節税になる?よくある誤解を整理する

