家族信託の受託者に選ばれた家族から、「思っていたより事務作業が大変」という声を聞くことがあります。受託者には、財産の管理だけでなく、法律で定められたいくつかの義務があります。引き受ける前に、実際の負担のイメージを持っておくことが大切です。「家族だから」という気持ちだけで安易に引き受けてしまうと、後になって想定外の負担に戸惑うことも少なくありません。

受託者に課される主な義務

  • 忠実義務:受益者のために忠実に職務を行う
  • 善管注意義務:善良な管理者として、注意を払って財産を管理する
  • 分別管理義務:信託財産と、受託者自身の財産を明確に分けて管理する
  • 公平義務:受益者が複数いる場合に、公平に職務を行う
  • 帳簿等の作成・保存義務:信託財産に関する帳簿や書類を作成し、保存する
  • 報告義務:受益者に対して、財産の状況を定期的に報告する(日々の処理状況の報告と、計算書類の報告の2本立てになっています)
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義務を怠った場合の法的責任

受託者が善管注意義務や分別管理義務に違反し、信託財産に損失を生じさせた場合、受益者から損失のてん補や原状回復を請求される責任を負います(信託法40条)。信託財産からではなく、受託者個人の財産で責任を負う、という点は押さえておきたいポイントです。ただし、この責任は契約書の定めによって軽減・免除することも可能で(信託法40条2項)、また受益者の側で責任を免除することもできます(信託法42条)。あらかじめ契約書でリスクの配分を設計しておくことで、受託者が過度に重い責任を負わない形にすることもできます。

実務でどの程度の負担になるか

財産の規模や種類によって異なりますが、預金の出入金記録や、不動産の維持管理費用の記録など、日々の記帳作業が発生します。会計ソフトや専用のフォーマットを使うことで、負担を軽減している方も多くいます。収益不動産が含まれる場合は、家賃収入や修繕費の記録も加わるため、負担はさらに大きくなる傾向があります。

よくあるご相談の例

「受託者になってからしばらくは何となく記録をつけていたが、数年経って改めて見返したときに、何のための支出だったか分からなくなってしまった」というご相談がありました。最初のうちだけ丁寧に記録して、途中から曖昧になってしまうのは、実務でよくあるパターンです。結局、過去の記録を一つひとつ確認し直す作業が必要になり、通常よりも多くの時間がかかってしまいました。

負担を軽減する工夫

  • 信託専用の口座を使い、通帳の記録をそのまま管理資料として活用する
  • 税理士や専門家に、帳簿作成のサポートを依頼する
  • 報告の頻度をあらかじめ契約で定め、都度対応に追われないようにする
  • 家計簿アプリや会計ソフトを使い、支出のたびに記録する習慣をつける。後でまとめて記録しようとすると、記憶が曖昧になりやすいため注意が必要です
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受託者の負担が大きすぎると、結局きちんと運用されないまま形骸化してしまうリスクもあります。契約時点で、実際に無理なく続けられる仕組みにしておくことが大切です。

よくある質問

Q. 受託者に報酬を支払うことはできますか?

A. 契約で定めれば、受託者への報酬を信託財産から支払うことも可能です。なお、契約に定めがない場合、受託者は原則として無報酬で職務を行うことになります(信託法54条)。家族間の信託では無報酬とするケースも多いですが、負担の大きさに応じて報酬を検討する家庭もあります。

Q. 帳簿を作らなかった場合、罰則はありますか?

A. 刑事罰は基本的に想定されていませんが、義務違反として、受益者から損失のてん補などの民事上の責任(信託法40条)を問われる可能性があります。日頃からの記録が受託者自身を守ることにもつながります。

Q. 記帳作業を専門家に丸ごと任せることはできますか?

A. 記帳の代行自体は行政書士でも対応できますが、確定申告書の作成や税務相談は税理士の業務範囲になります(税理士法52条)。ご自身の状況に応じて、行政書士と税理士、それぞれに依頼する範囲を整理しておくとスムーズです。

Q. 受託者を辞めたくなった場合、途中でやめられますか?

A. 契約内容によりますが、一定の手続きを踏めば辞任できる場合があります。その際は後継受託者への引き継ぎが必要になるため、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

せと行政書士事務所ができること

受託者の実務負担を見据えたうえで、無理なく続けられる記帳方法や報告の仕組みについても一緒に整理します。

まとめ

受託者には、忠実義務・分別管理義務・帳簿作成・報告といった実務上の義務があります。負担を軽く見積もらず、契約の段階から無理のない運用方法を考えておくことが大切です。


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執筆者:せと行政書士事務所 代表 瀬戸孝之(行政書士・CFP・FP1級技能士・宅地建物取引士・家族信託専門士)

投稿者プロフィール

瀬戸 孝之
瀬戸 孝之資産トータルアドバイザー
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、家族信託専門士、一種外務員を保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。