家族信託の大きなメリットの一つは、認知症などで判断能力が低下した後も、受託者の判断で不動産を売却できることです。ただし、実務上は事前に確認しておくべき点がいくつかあり、準備なしに進めると想定外の手戻りが発生することもあります。

信託契約の内容が売却の可否を左右する

受託者は、契約で特に制限していない限り、信託財産を管理したり処分したりする権限をもともと持っています。ただし実務では、その権限が信託の記録(信託目録)や登記にはっきり書かれていないと、買主や金融機関、司法書士が確認するのに時間がかかり、手続きが進みにくくなることがあります。契約を結ぶ時点で、将来売却する可能性も考えて、権限を狭くしすぎていないか、記録にどう書いておくかを確認しておくことが大切です。

不動産売却のイメージ

売却時の実務の流れ

  • 登記簿上の名義は受託者になっているため、受託者が売主として契約手続きを行う
  • 売却して得たお金は、信託専用の口座に入れて、信託財産として管理する。この専用口座は、銀行によって作れる条件や対応が異なるため、契約前にどの銀行なら対応してもらえるか確認しておく必要があります
  • 不動産会社や司法書士にも、信託不動産である旨を事前に伝えておく
  • 売却後の資金の使い道(施設費用への充当など)も、契約内容に沿って進める
委任契約書へのご署名・ご捺印のイメージ

よくあるご相談の例

「信託財産の実家を売却しようとしたところ、依頼した不動産会社が信託不動産の取り扱いに不慣れで、通常の売却よりも書類の確認に時間がかかってしまった」というケースがありました。事前に信託の実務に詳しい専門家を交えて進めていれば、もう少しスムーズに手続きできたはずでした。最終的には売却自体は無事に完了しましたが、想定より1ヶ月ほど余分に時間がかかったとのことでした。

注意しておきたいポイント

信託不動産の売却に不慣れな不動産会社や金融機関もあるため、信託の実務に詳しい専門家と一緒に進めることで、手続きがスムーズになります。また、売却によって得た資金をどう管理・分配するかも、契約内容にあわせて確認しておきましょう。

売却代金の税務上の扱い

信託した不動産を売って利益が出た場合、その利益は原則として受益者(信託から利益を受け取る人)の所得として扱われます。マイホームを売ったときに使える税金の控除など、通常の不動産売却で使える制度が使えるかどうかは、信託の内容によって判断が分かれることもあるため、事前に税理士に確認しておくと安心です。なお、財産を託した本人(委託者)がそのまま利益を受け取る、一般的な形の信託であれば、所有期間や取得費、取得時期は、そのまま引き継がれます。信託に入れたことで所有期間がリセットされるわけではありません。一方、委託者本人ではなく、別の人を利益を受け取る人にする信託の場合は、信託を設定した時点でその人への贈与とみなされる課税関係が別途生じるため、譲渡時の取扱いも個別に確認が必要です。多くの家族信託は、委託者自身が利益を受け取る一般的な形をとりますが、念のため契約内容を確認しておくと安心です。

よくある質問

Q. 受益者の同意がなければ売却できませんか?

A. 契約内容によります。受託者の権限として単独売却が認められている場合と、受益者の同意を必要とする場合があるため、契約書の確認が必要です。

Q. 信託不動産の売却でも仲介手数料はかかりますか?

A. 通常の不動産売却と同様に、仲介手数料や譲渡所得税など、一般的な費用・税金が発生します。

Q. 信託不動産の売却は、通常の売却より時間がかかりますか?

A. 不動産会社や金融機関が信託の仕組みに慣れていない場合、確認事項が増えて時間がかかることがあります。信託の実務に詳しい専門家に間に入ってもらうことで、スムーズに進めやすくなります。

Q. 信頼できる不動産会社は、どうやって見つければいいですか?

A. 信託不動産の取り扱い実績がある不動産会社を紹介してもらえる場合もあるため、まずは信託の契約を担当した専門家に相談してみることをおすすめします。

せと行政書士事務所ができること

信託不動産の売却に必要な手続きの整理や、不動産会社・司法書士との連携について、実務に沿ってサポートします。

まとめ

信託不動産の売却は、通常の不動産取引と異なる確認事項があります。契約時点で売却の可能性を想定し、権限を明確にしておくことが、実際に必要になった際のスムーズな売却につながります。


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執筆者:せと行政書士事務所 代表 瀬戸孝之(行政書士・CFP・FP1級技能士・宅地建物取引士・家族信託専門士)

投稿者プロフィール

瀬戸 孝之
瀬戸 孝之資産トータルアドバイザー
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、家族信託専門士、一種外務員を保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。