アパートやマンションなど、ローンが残っている収益不動産を家族信託に入れたいという相談は多くあります。認知症などで判断能力が低下すると、賃貸経営そのものが止まってしまうリスクがあるためです。ただし、ローンが残っている不動産の信託は、金融機関との調整が必要になり、実務上のハードルがいくつかあります。
なぜ金融機関の承諾が必要になるのか
信託を設定すると、不動産の登記名義は受託者に移ります。ここで見落とされがちなのが、抵当権が設定されている不動産の名義変更登記には、抵当権者(金融機関)の承諾書が必要という点です。つまり、金融機関に無断で名義変更(信託登記)を進めること自体が、そもそも手続き上できません。さらに、ローンの契約(金銭消費貸借契約)にも「無断で不動産の名義を変更してはならない」という条項が含まれているのが一般的で、登記実務・契約内容の両面から、事前の金融機関への相談と承諾取得が欠かせません。

銀行だけでなく、保証会社の承諾が必要になることも
アパートローンの多くには、返済が滞った際に銀行へ代位弁済を行う「保証会社」が付いています。金融機関(銀行)の内部では信託内借入に前向きな回答が得られても、保証会社側の審査基準を満たせず、別途調整が必要になるケースがあります。銀行の担当者だけでなく、保証会社がどこか、その保証会社が信託を前提とした借入に対応した実績があるかも、早い段階で確認しておくと安心です。
承諾が得られなかった場合はどうなるか
抵当権者の承諾書がなければ、信託の登記手続き自体を進めることができません。したがって、金融機関に相談せずに信託を組んでしまうケースというより、相談した結果、承諾が得られず手続きが止まってしまうというのが実務上の課題です。この場合、事情を説明し、信託内借入(受託者が新たな借主となる形での借り換え)に応じてもらえる金融機関も増えていますが、対応は金融機関によって差があります。
実務での進め方
- 信託を検討し始めた早い段階で、現在の借入先の金融機関に相談する。契約書を作ってから相談するのではなく、検討の初期段階で動くことが重要です
- 信託内借入に対応できるか、条件(金利・保証人・保証会社など)を確認する。金利が変わる場合もあるため、資金計画への影響も確認しておきましょう
- 対応が難しい場合は、他の金融機関への借り換えも選択肢に入れる
- 専門家を交えて、金融機関との調整を進める。金融機関側にも信託の仕組みを正確に説明できる専門家が同席すると、話がスムーズに進みやすくなります

よくあるご相談の例
複数のアパートを所有するオーナー様から、「自分が認知症になった場合、家賃収入や修繕の判断が止まってしまうのが心配」というご相談をいただきました。ローンが2つの金融機関にまたがっていたため、それぞれに個別で相談し、片方は信託内借入に対応してもらえましたが、もう片方は条件が折り合わず、最終的に借り換えを選択することになりました。結果として、当初の想定より半年ほど長く準備期間がかかりましたが、経営を止めない体制を整えることができました。
金融機関との調整には時間がかかることが多いため、収益不動産を信託に入れる計画がある場合は、契約書を作る前の段階から動き出すことが大切です。
よくある質問
Q. 信託にした後の家賃収入は、誰の所得になりますか?
A. 税務上は、受益者の所得として扱われます。ただし、信託から生じた不動産所得に損失が出た場合、他の所得と損益通算ができないという税務上の注意点があるため、税理士への確認をおすすめします。
Q. すべての金融機関で信託内借入に対応していますか?
A. いいえ、対応は金融機関によって異なります。事前の相談なしに信託契約を進めてしまうと、後から選択肢が狭まることもあるため注意が必要です。
Q. 借り換えをする場合、諸費用はどのくらいかかりますか?
A. 事務手数料のほか、抵当権の設定登記にかかる登録免許税(原則として借入額の0.4%)など、通常の借り換えと同程度の諸費用が発生します。金融機関によって事務手数料の金額は異なるため、事前に見積もりを確認しておきましょう。
Q. 相談から実際の借り換えまで、どのくらい時間がかかりますか?
A. 金融機関の審査状況によりますが、数ヶ月単位で見ておくと安心です。物件数が多いほど、調整に時間がかかる傾向があります。
せと行政書士事務所ができること
収益不動産を信託に入れる際の金融機関(および保証会社)との調整や、必要な書類の整理について、実務の流れに沿ってサポートします。
まとめ
ローンが残る収益不動産を家族信託に入れる場合、金融機関との事前調整が欠かせません。契約書の作成を進める前に、借入先への相談から始めることをおすすめします。
執筆者:せと行政書士事務所 代表 瀬戸孝之(行政書士・CFP・FP1級技能士・宅地建物取引士・家族信託専門士)
投稿者プロフィール

- 資産トータルアドバイザー
-
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、家族信託専門士、一種外務員を保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。
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