― 初めてでもわかる「基本のキホン」 ―

最近、「家族信託」という言葉を新聞やテレビで見かけることが増えました。
相続や認知症対策のご相談を受けていると、「聞いたことはあるけれど、正直よく分からない」「後見制度や遺言と何が違うの?」という声を本当によく耳にします。

なぜ今、家族信託がこれほど注目されているのでしょうか。

なぜ家族信託が注目されているのか

背景にあるのは、日本の急速な高齢化です。
親が高齢になり、もし認知症を発症すると、銀行口座からお金が引き出せなくなったり、自宅や不動産を売却できなくなったりするケースがあります。

「親のお金なのに、親の介護費や生活費に使えない」
これは、実際に多くのご家庭で起きている現実です。

また、「まだ元気だけれど、将来のことを考えて今のうちに備えておきたい」という方も年々増えています。
こうした悩みや不安に応える仕組みとして、家族信託が広がってきました。

家族信託とは?一言でいうと

家族信託を簡単に言うと、
**「元気なうちに、信頼できる家族に財産管理を託しておく仕組み」**です。

登場人物は、基本的に次の3人です。

  • 委託者(いたくしゃ)
    財産を持っている人。多くは親です。「この財産を託す」と決める人です。
  • 受託者(じゅたくしゃ)
    財産の管理を任される人。子どもがなることが多く、責任を持って管理します。
  • 受益者(じゅえきしゃ)
    財産から得られる利益を受け取る人。委託者本人がなるケースが一般的です。

たとえば、70歳のお父様が自宅と預金を持っており、将来に備えて息子さんに管理を任せるとします。
この場合、お父様が「委託者兼受益者」、息子さんが「受託者」となります。
息子さんは、お父様の生活費や医療費、介護費用の支払いなどを、信託された財産から行えるようになります。

どんな場面で役立つのか

① 認知症への備えとして
認知症になると、銀行は本人確認ができないとして口座取引を制限します。不動産の売却も、本人の意思確認ができなければ進められません。
家族信託があれば、認知症になった後も、受託者が継続して財産管理を行えます。

② 賃貸不動産をお持ちの場合
賃貸アパートの管理には、家賃管理、修繕、契約更新など多くの判断が必要です。
家族信託を使えば、子どもが受託者として賃貸経営を引き継ぎ、収益を親の生活に充てることができます。

③ 障害のある子どもの将来のために
「親亡き後、この子の生活はどうなるのか」という不安は非常に大きなものです。
家族信託を使えば、きょうだいなどが財産管理を続け、障害のある子どもの生活を長期的に支えることが可能です。

成年後見制度との違い

成年後見制度は、すでに判断能力が低下してから利用する制度です。
一方、家族信託は元気なうちに準備できる点が大きな違いです。

また、後見制度は「財産を守る」ことが目的のため、不動産売却などには家庭裁判所の許可が必要になります。
家族信託では、契約で定めた範囲内で、より柔軟な財産管理が可能です。

遺言との違い

遺言は、亡くなった後に効力が発生します。
そのため、生前の財産管理には対応できません。

家族信託は、生前から死後まで一貫して財産の流れを設計できる点が特徴です。
さらに、遺言では難しい「次の世代、その次の世代」までの承継指定も可能です。

家族信託を始める流れ

  1. 家族でしっかり話し合う
  2. 専門家に相談する
  3. 信託契約書を作成(公正証書がおすすめ)
  4. 信託登記や口座開設などの手続きを行う

注意点も忘れずに

受託者の責任は決して軽くありません。
また、家族の理解を得ずに進めると、後々トラブルになることもあります。
「制度ありき」ではなく、「家族にとって本当に合っているか」を考えることが大切です。

まとめ

家族信託は、認知症対策や将来の財産承継を考えるうえで、とても有効な選択肢です。
ただし、すべてのご家庭に必要なわけではありません。

大切なのは、
「元気なうちに、家族で将来について話し合うこと」
その選択肢の一つとして、家族信託を知っておいていただければと思います。

「うちの場合はどうだろう?」
そう思われた方は、一度専門家に相談してみてください。


せと行政書士事務所
📞 06-4400-3365

相続・認知症対策は、早めの一歩がご家族を守ります。
これまでのご縁を大切にしながら、これからも皆さまのお力になれるよう尽力してまいります。

投稿者プロフィール

瀬戸 孝之
瀬戸 孝之資産トータルアドバイザー
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、年金総合診断士、家族信託専門士、相続対策コンサルタントを保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。