――超高齢社会における「権利を守る」ための仕組み

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分になった方を、法的に保護し支援するための制度です。2000年に制度が始まってから四半世紀が経過しましたが、超高齢社会を迎えた日本において、その役割は年々重要性を増しています。

一方で、制度の存在は知っていても、「実際にどういう時に使うのか」「本当に必要なのか」といった疑問を持つ方は少なくありません。現場で相談を受けていると、成年後見制度は必要に迫られて初めて検討される制度であることが多いと感じます。

相続対策の考え方
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成年後見制度の基本的な仕組み

成年後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の二つがあります。

法定後見は、すでに判断能力が低下してしまった後に利用する制度です。家庭裁判所に申立てを行い、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」のいずれかが開始されます。判断能力が著しく低下している場合は「後見」となり、成年後見人が本人に代わって財産管理や契約行為を行い、不利益な契約を取り消すことも可能です。

一方、任意後見は、判断能力が十分にあるうちに、将来に備えてあらかじめ後見人となる人や支援内容を契約で決めておく制度です。公正証書で契約を結び、実際に判断能力が低下した段階で家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てることで効力が生じます。
「元気なうちに備える制度」である点が、法定後見との大きな違いです。

増え続ける申立件数と制度利用の現実

司法統計によれば、成年後見関係事件の申立件数は年間4万件を超え、利用者数も25万人以上に達しています。申立ての動機で最も多いのは「預貯金の管理・解約」で、次いで介護施設入所などの「身上保護」が続きます。

実務上よくあるのは、親が認知症になり、銀行口座が凍結されて生活費が引き出せなくなった、施設との契約ができなくなった、というケースです。「困ってから制度を知る」方が多いのが現状です。

また、近年は市区町村長による申立てが増えています。身寄りのない高齢者や、家族から十分な支援を受けられない方を行政が守る役割を担っているのです。

専門職後見人が主流となった背景

かつては、子どもなどの親族が後見人になるケースが一般的でした。しかし現在では、後見人等の約8割が司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職です。

背景には、親族による財産の不正利用や、相続を見据えた利害対立があります。家庭裁判所は「誰が一番本人の利益を守れるか」という視点で後見人を選任するため、申立人の希望通りにならないことも少なくありません。

認知症高齢者の増加と利用率の低さ

認知症高齢者は今後さらに増加すると見込まれています。しかし、成年後見制度の利用率は潜在的対象者のうち、わずか数%にとどまっています。

制度が難しく感じられること、相談先が分からないこと、専門職後見人の報酬負担が継続的に発生することなどが、利用が進まない要因と考えられます。

成年後見制度のメリットと注意点

成年後見制度の最大のメリットは、本人の財産と生活を法的に守れる点です。詐欺被害や不当な契約から本人を守り、必要な契約や手続きを代行できる安心感は大きなものです。

一方で、一度利用すると原則として本人が亡くなるまで制度が続くこと、財産の自由な処分や相続対策が制限されること、継続的な費用負担が生じることなど、デメリットも理解しておく必要があります。

これからの制度と私たちにできる備え

現在、成年後見制度の見直しが進められており、将来的には「必要な支援が終われば制度を終了できる仕組み」などが検討されています。より柔軟で使いやすい制度への転換が期待されています。

成年後見制度は、すべての人にとって他人事ではありません。
大切なのは、「認知症になってから考える」のではなく、「元気なうちに選択肢を知っておく」ことです。

成年後見、任意後見、家族信託、遺言――
それぞれの制度には向き・不向きがあります。状況に応じた最適な備えを、専門家と一緒に考えていくことが、将来の安心につながります。


せと行政書士事務所
成年後見・任意後見・相続・家族信託のご相談
☎ 06-4400-3365

投稿者プロフィール

瀬戸 孝之
瀬戸 孝之資産トータルアドバイザー
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、年金総合診断士、家族信託専門士、相続対策コンサルタントを保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。