――遺言書だけでは防げない相続トラブルの実態
「遺言書があれば相続は安心」だと思っていませんか?
「遺言書さえ作っておけば、相続で揉めることはない」
相続相談の現場で、この言葉を本当によく耳にします。
しかし実際には、遺言書が存在しているにもかかわらず、相続トラブルに発展するケースは少なくありません。
家庭裁判所で扱われる遺産分割調停事件の中にも、遺言書がある事案が相当数含まれています。
なぜ、法的に有効な遺言書があっても揉めてしまうのでしょうか。
遺言書とは「万能なトラブル防止策」ではありません
遺言書は、被相続人の死亡と同時に効力を生じる強力な法律行為です。
法定相続分よりも優先され、財産の分け方を指定することができます。
しかし、遺言書は内容や作成状況によっては、かえって争いの火種になることもある制度です。
「遺言がある=争いが起きない」とは限らない、という点をまず押さえておく必要があります。
なぜ「遺言があっても揉める」のか

実務上、遺言があっても揉める原因は、大きく次の4つに集約されます。
- 遺言能力(判断能力)をめぐる争い
- 公正証書遺言でも要件を欠いているケース
- 遺言の文言が曖昧で解釈が分かれるケース
- 遺留分をめぐるトラブル
以下、実際の裁判例をもとに整理します。
【ケース①】遺言能力を争われた事例
遺言トラブルで最も多いのが、遺言者の判断能力をめぐる争いです。
たとえば、京都地裁平成25年4月11日判決では、
数億円の全財産を顧問弁護士に遺贈するという自筆証書遺言が争われました。
遺言者は認知症の初期段階にありましたが、裁判所は単に認知症であることだけでは足りないとしつつも、
- 遺言内容が極めて重大・複雑であること
- 遺言の動機や理由が不自然であること
を重視し、「利害得失を理解していなかった」として遺言を無効と判断しました。
公正証書遺言であっても同様です。
東京地裁令和2年1月28日判決では、認知機能検査や医師の意見書をもとに、
「遺言内容を正確に理解できる状態ではなかった」として無効とされています。
【ケース②】公正証書遺言でも無効になることがある
「公正証書遺言なら絶対安心」と思われがちですが、そうとは限りません。
東京高裁平成27年8月27日判決では、
公正証書遺言に必要な「口授(自分の言葉で内容を伝えること)」が問題となりました。
裁判所は、
公証人の質問に対してうなずく、肯定するだけでは足りない
とし、
遺言者自身が自分の言葉で内容を語っていない以上、口授要件を満たさないとして、
公正証書遺言であっても無効と判断しました。
【ケース③】遺言の文言が曖昧だった事例
遺言書の文言が曖昧な場合、その解釈をめぐって争いが生じます。
最高裁昭和58年3月18日判決では、
いわゆる「後継ぎ遺贈」とも取れる遺言の解釈が問題となりました。
また、大阪高裁平成25年9月5日判決では、
「すべて任せます」という表現が、遺贈なのか、単なる手続委任なのかが争われ、
最終的に遺贈と判断されています。
曖昧な言葉は、相続人それぞれに都合よく解釈され、争いの原因になります。
【ケース④】遺留分をめぐるトラブル
遺言で全財産を特定の人に相続させても、
他の相続人には遺留分という最低限の権利が保障されています。
実際、遺留分侵害額請求をめぐる裁判は後を絶ちません。
令和5年10月26日の最高裁決定でも、遺留分と特別寄与料の関係が争われています。
「遺言があるから大丈夫」と思っていた相続が、
結果として長期の紛争に発展することも珍しくありません。
よくある誤解
ここで、よくある誤解を整理しておきます。
- ❌ 公正証書遺言なら絶対に揉めない
- ❌ 遺言書さえ作れば相続対策は完了
- ❌ 法律的に有効なら問題は起きない
これらはいずれも誤解です。
遺言書は「相続対策のスタート地点」にすぎません。

行政書士の視点から整理すると
遺言トラブルを防ぐために重要なのは、次の点です。
- 遺言能力について、医師の診断書など客観的証拠を残すこと
- 公正証書遺言では、必ず自分の言葉で内容を説明すること
- 文言を曖昧にせず、財産を具体的に特定すること
- 遺留分を意識した設計を行うこと
- 生前から、遺言の趣旨や理由を家族に伝えておくこと
「法的に有効」かつ「家族が納得できる」内容であることが重要です。
まとめ:遺言書は万能ではありません
遺言書は、正しく使えば非常に有効な制度です。
しかし、形だけ整えた遺言書では、かえって家族の対立を深めることもあります。
相続トラブルを本気で防ぎたいのであれば、
遺言書を「書くこと」ではなく、
「どう設計するか」「どう伝えるか」まで含めて考える必要があります。
せと行政書士事務所では・・・・
相続・遺言・家族信託・成年後見を専門に、
法律と実務の両面から、将来の不安を整理するサポートを行っています。
「遺言書を作りたいが、本当にこれで大丈夫なのか」
「将来、家族が揉めないか心配」
そう感じた時点が、相談のタイミングです。
初期の段階からご相談いただくことで、選択肢は大きく広がります。
📞 06-4400-3365
せと行政書士事務所(大阪市北区)
投稿者プロフィール

- 資産トータルアドバイザー
-
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、年金総合診断士、家族信託専門士、相続対策コンサルタントを保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。
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