――制度利用後の日常を具体的に理解する――

成年後見制度とは何か(定義)

成年後見制度とは、認知症や知的障害などにより判断能力が低下した方について、家庭裁判所が成年後見人等を選任し、本人の財産管理や契約行為を法的に支援・保護する制度です。
後見人は本人の代理人として行動しますが、すべてを自由に決められる立場ではなく、家庭裁判所の監督下で職務を行います。

なぜ生活に変化が生じるのか(理由)

成年後見制度の目的は「本人の保護」です。
そのため、財産の流れや契約内容を明確にし、不利益が生じないよう管理を厳格化する仕組みが取られています。この結果、これまで本人や家族が感覚的に行っていた支出や契約についても、一定のルールが適用されるようになります。

制度利用後の生活で変わること(データ・実務)

最も大きな変化は財産管理です。
預金通帳や保険証書は後見人が管理し、年金等の収入、生活費・医療費・介護費などの支出を帳簿で管理します。
後見人は定期的に家庭裁判所へ報告を行い、不動産売却などの重要行為には裁判所の許可が必要となる場合もあります。

一方で、日用品の購入など「日常生活に関する行為」は本人が単独で行えます。
コンビニやスーパーでの買い物、交通費の支払いなどは、制度利用後も基本的に変わりません。

よくある誤解

「成年後見を使うと何もできなくなる」という誤解は根強くありますが、これは正確ではありません。
後見人には、本人の日用品購入を取り消す権限もなく、生活の細部まで管理する立場でもありません。
制限されるのは主に「法律行為」と「財産処分」に関する部分です。

実務でよくあるケース

例えば、介護施設への入所契約や介護保険サービスの契約は後見人が代理します。一方で、施設でどの部屋を選ぶか、日常の過ごし方については、本人の意思が最大限尊重されます。
また、医療行為については、成年後見人であっても同意権はありません。これは医療が本人の自己決定権に基づく「一身専属の権利」であるためです。

専門家として整理すると

成年後見制度は「生活を支配する制度」ではなく、「リスクを遮断する制度」です。
財産の安全性は高まりますが、柔軟な資産運用や生前贈与、相続対策は原則として難しくなります。
この点を理解せずに制度を利用すると、「思っていた生活と違う」と感じる原因になります。

8.おわりに

成年後見制度を利用すると、生活の枠組みは確実に変わります。
安心が得られる反面、自由度が下がる場面もあるため、制度の性質を具体的に理解したうえで選択することが重要です。

なお、上記で触れた成年後見制度の課題については、現在、国において見直しが進められています。
原則終身制である点や、本人の意思が十分に反映されにくい点などを踏まえ、必要な範囲・期間に限定した支援のあり方や、より柔軟な制度設計について検討が行われています。

現行制度を前提に判断するだけでなく、将来的な制度改正の方向性も視野に入れながら、本人にとって本当に適した支援方法を考えることが求められます。

成年後見制度は「使う・使わない」ではなく、「いつ・どの形で関わるか」が重要です。
制度の正しい理解が、将来の選択肢を大きく左右します。

せと行政書士事務所
TEL:06-4400-3365

投稿者プロフィール

瀬戸 孝之
瀬戸 孝之資産トータルアドバイザー
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、年金総合診断士、家族信託専門士、相続対策コンサルタントを保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。