― 相続後に後悔しないために、いま考えておくべきこと ―
親から受け継ぐ実家は、単なる「不動産」ではありません。
家族の記憶が刻まれた場所であり、簡単に結論を出せないのは当然です。
しかし近年、相続を取り巻く環境は大きく変わっています。
2024年4月から相続登記が義務化され、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を行わなければならない制度となりました。
「いずれ考えればいい」「とりあえずそのままにしておく」
こうした選択が、かえってリスクになる時代に入っています。

空き家を持ち続けるという現実
実家を空き家のまま所有する場合、まず直面するのが維持コストです。
一般的に、空き家の年間維持費は30万円〜50万円程度、条件によっては100万円近くになることもあります。
主な内訳は、
・固定資産税・都市計画税
・火災保険料
・管理サービスの委託費
・水道光熱費、草刈りや清掃などの管理費
さらに、築年数が経過した住宅では、屋根や外壁、給排水設備といった大規模修繕が必要になり、数十万円から百万円単位の支出が発生するケースもあります。
誰も住まなくなった家は、想像以上に早く劣化します。
換気されない室内は湿気がこもり、カビや害虫の原因となり、資産価値は確実に下がっていきます。遠方に住んでいる方であれば、管理を外部に委託せざるを得ない場合も少なくありません。

「売る」という選択肢の意味
売却の最大のメリットは、維持費の負担から解放されること、そして資産を現金化できることです。
相続した空き家については、一定の要件を満たせば
「被相続人の居住用財産(空き家)の3000万円特別控除」
を利用できる可能性があります。
1981年5月31日以前に建築された家屋で、被相続人が一人で居住していた場合など、条件はありますが、譲渡所得から最大3000万円を控除できる制度です。
この特例は2027年12月31日までの期限付きであり、かつ相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。
また、相続人が複数いる場合、時間が経つほど話し合いは難しくなる傾向があります。建物の老朽化も進み、売却条件は年々厳しくなります。
「売る」と決めるのであれば、早めの判断が結果的に納得のいく形になることも多いのが実情です。
「貸す」場合は冷静な見極めが不可欠
賃貸に出せば、家賃収入を得ながら実家を残すことができます。
しかし、実際の賃貸経営は決して簡単ではありません。
入居者を迎えるためのリフォームやリノベーションに数百万円かかることもありますし、管理委託費、空室期間の維持費、退去後の原状回復費用など、継続的な支出が発生します。
特に地方では、賃貸需要そのものが限られているケースも多く、想定した家賃で借り手がつかないこともあります。入居者トラブルへの対応や税金負担は、すべて所有者の責任です。
賃貸を選択するのであれば、
・立地条件が良い
・賃貸需要が安定している
・将来、自身や家族が住む予定がある
こうした前提が揃っているかを、慎重に検討する必要があります。
「残す」選択と、その責任
「思い出を残したい」「いずれ自分が住むかもしれない」
こうした理由から、実家を残す判断をされる方もいらっしゃいます。
ただし、管理されていない空き家は特定空家に指定されるリスクがあります。
特定空家に該当すると、住宅用地特例が外れ、固定資産税が最大6倍になる可能性があります。最終的には行政による強制撤去が行われ、その費用は所有者負担となります。
実家を残すのであれば、定期的な管理は不可欠です。
月1回以上の訪問、または管理サービスへの委託など、年間数十万円のコストを長期間負担する覚悟が必要になります。

判断の前に確認してほしい4つのポイント
実家の扱いを決める前に、次の点を整理してみてください。
- 相続登記は完了しているか
- 建物の状態(雨漏り、シロアリ、設備劣化など)
- 売却・賃貸の需要が見込める立地か
- 相続人全員の意見が整理できているか
実家は、数字だけでは判断できない資産です。
しかし、感情だけで先送りにすることも、必ずしも良い結果にはつながりません。
思い出は大切にしながら、現実と向き合う。
その上で選んだ判断であれば、きっと後悔は少なくなるはずです。
相続や不動産の判断は、「早く決めること」よりも「間違えずに決めること」が重要です。
迷われたときは、どうぞ一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。
せと行政書士事務所
代表 瀬戸
TEL:06-4400-3365
投稿者プロフィール

- 資産トータルアドバイザー
-
せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、年金総合診断士、家族信託専門士、相続対策コンサルタントを保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。
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