人生100年時代において、老後は年金だけで完結するものではありません。
公的年金制度の現実、健康寿命、家族形態の変化、認知症リスクを正しく理解することが重要です。
本記事では、公的データをもとに「本当に安心できる老後設計」の考え方を整理します。
はじめに:変わりゆく老後の姿
「人生100年時代」という言葉が日常的に聞かれるようになった現代、老後設計の在り方は大きな変革を迫られています。金融庁の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年)によれば、現在60歳の人の約4分の1が95歳まで生存する時代を迎えています。平均寿命も男性約81歳、女性約87歳と大きく伸び、老後はもはや短期間ではありません。
この長寿化という「恩恵」を、真の意味で安心できる老後につなげるためには、従来の発想を見直す必要があります。
老後は単なる引退後の余生ではなく、人生の大きな後半戦として、計画的に向き合うべき時代になっています。

公的年金制度の現実を正しく理解する
老後設計の基盤となるのは、公的年金制度です。
内閣府「令和7年版高齢社会白書」によれば、令和5年度の調査で「全面的に公的年金に頼る」と回答した人は26.3%、「公的年金を中心に、個人年金や貯蓄などを組み合わせる」と回答した人は53.8%に上り、約8割の国民が公的年金を老後生活の中心に据えています。
一方で、制度理解は十分とは言えません。厚生労働省「生活設計と年金に関する世論調査」(令和6年3月)では、「国民年金への加入義務」を知っている人は82.0%、「60~75歳で受給開始時期を選択できる」ことを知っている人は73.0%にとどまっています。
令和6年財政検証では前回より改善した見通しが示されたものの、将来の所得代替率は経済成長率や人口動態の影響を受けます。制度の現状と限界を正しく理解したうえで老後設計を考えることが不可欠です。
就労と健康寿命の延伸という選択
内閣府「令和6年度高齢社会対策総合調査」によれば、60歳以上で収入を伴う仕事をしている人は4割を超え、増加傾向にあります。また、「75歳くらいまで」「80歳くらいまで」「働けるうちはいつまでも」と回答した人の合計も4割を超えています。
働く理由は「収入のため」が最も多いものの、「体によい」「老化を防ぐ」といった理由も高い割合を占めています。特に高年齢層ほど、その傾向は強まります。
金融庁報告書によれば、健康寿命は男性約72歳、女性約75歳であり、平均寿命との差は9~12年あります。この期間は就労が困難になり、介護費用などの支出が発生しやすくなります。健康寿命を延ばすことは、老後設計において極めて重要です。

多様化する家族形態への対応
高齢社会白書によれば、65歳以上の者がいる世帯では単身世帯や夫婦のみ世帯が増加し、三世代世帯は1975年の54.4%から2017年には11.0%まで減少しました。
持ち家比率も60歳未満では低下しており、従来の「標準的な老後モデル」は成り立ちにくくなっています。
総務省家計調査によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の月平均支出は約25万円、単身無職世帯では約14万円とされていますが、これはあくまで平均値です。家族形態や健康状態により、必要な備えは大きく異なります。
認知症リスクへの備え
金融庁報告書が強く警鐘を鳴らすのが、認知症リスクです。
2012年時点で65歳以上の認知症患者は約462万人(約7人に1人)、軽度認知症を含めると4人に1人が認知・判断能力に問題を抱えています。2025年には約700万人(約5人に1人)に達すると推計されています。
認知・判断能力が低下すると、預金の引き出しや不動産の売却、契約行為などが困難になります。成年後見制度の利用は増えていますが、制度への理解は十分とは言えません。
老後設計では、判断能力が十分なうちに、資産管理の方法や意思決定の在り方を整理しておくことが重要です。
👉 ※詳しくは
「認知症リスクと老後設計―資産管理ができなくなる前に考えるべきこと」
をご参照ください。

資産形成と分散投資の重要性
金融審議会報告書は、長寿化に伴い「資産寿命を延ばすこと」の必要性を指摘しています。公的年金に加え、私的年金、預貯金、投資などを組み合わせた多層的な資産形成が求められます。
米国のプルーデント・インベスタールールでは、受託者に分散投資が求められています。日本でもNISAやiDeCoが整備され、長期・分散・積立による資産形成が推奨されています。ただし、金融リテラシーの向上が前提です。
金融リテラシーと情報収集の質
厚生労働省の調査では、公的年金制度の理解促進策として「テレビや新聞などのマスメディア」を挙げる人が59.5%でした。私的年金制度の情報源としては、「新聞・ニュースサイト」「テレビ・ラジオ」「厚生労働省の広報やセミナー」が上位を占めています。
重要なのは、信頼できる公的情報源を基に判断することです。SNSなどの情報に過度に依存せず、正確な情報を取捨選択する姿勢が求められます。
おわりに:個々人に応じた最適解を求めて
本当に安心できる老後設計とは、画一的なモデルに当てはめることではありません。
ライフスタイル、家族形態、健康状態、価値観に応じた最適解を見出すことが重要です。
公的年金制度の理解、健康寿命の延伸、資産形成、認知症リスクへの備え、金融リテラシーの向上。これらを総合的に考えることではじめて、「本当に安心できる老後」が実現します。
老後設計は、すでに今この瞬間から始まっています。
投稿者プロフィール

- 資産トータルアドバイザー
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せと行政書士事務所、代表。
行政書士、CFP、FP 1級技能士、宅地建物取引士、年金総合診断士、家族信託専門士、相続対策コンサルタントを保有。シニア世代の悩みをワンストップで解決する事務所として、FP、不動産売買、終活、相続対策など、トータルサポートを提供している。
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